三度の飯と、考えごと

小説、ボルダリング、コーヒー、農業。

「農家を減らせ!」 平成30年度 秋田県JA青年大会 主張発表原稿

※原題「ド田舎の商店」

 

 「 農家は減っていく…のではなく、 減らさなければいけない」


 僕は、農家ではありません。現役のJA職員です。「農家は減らさなければいけない」こう思った経緯をお話しいたします。


 まずは、僕がJAに入ったばかりの、今よりもひよっこだった頃の話から。


 1年目の職員は、農家さんのもとで、数日間農作業を体験することになります。畑に野菜の種を蒔いたり苗を植えたり、枝豆の選別をしたり。しゃがんだり中腰になったりと、疲れました。


 皆さんからすれば笑われるような話ですが、農業未体験の僕にとっては、たかだか数日の農作業でへとへとでした。


 最初に持った仕事は生産調整。その年は、米の直接支払交付金が15000円/10aだった頃です。農政の立場から農業を見ることになり、担い手の高齢化、厳しい経営状況を目の当たりにしました。


 農業には色々な補助金交付金がつきます。


 こんなに辛い仕事をしているのだから、もっと交付金を多くしてくれればいいのに。
 JA 1年目の僕はそう思っていましたが、次の年、交付金は半分になってしまいました。


 米価も暴落し、農家さんの口から出るのは「採算が合わない、もう農家を辞めてしまおうか」という暗い話ばかり。 そんな窮状を目の当たりにし、「どうして政府は何もしてくれないのだろう」と思いました。


 平成30年。とうとう米の直接支払い交付金は廃止になり、国からの減反政策もなくなりました。


 しかし、今の僕はこう思っています。


 「 米の直接支払交付金はなくなって当然。 なくさなければいけないものだった」
 例え話をします。スーパーも飲食店も、何もない田舎町の役場があることを思いつきました。


 「この町にお店を開いた方に年間100万円を補助します」
 とあるラーメン好きの人が
 「いっちょラーメン屋でもやってみるか」
 と、一念発起し、ラーメン屋を開店します。何もなかった町にできたラーメン屋は大繁盛でした。しかし、年月が経ち、過疎が進み、町から人がいなくなっていきました。


 いくら、美味しいラーメンを作っても、食べてくれるお客さんがいなければ商売になりません。 需要あっての供給だからです。年々、経営は傾いていきましたが、年間100万円の補助金のおかげで、何とか暮らしています。


 火の車で頑張っていた最中、役場から衝撃の一言。


 「年間100万円の補助ですが、来年で最後にします」


 100万円の補助がなくなった主人は店をたたむことになりました。


 さて、 皆さんに質問です。 この話、ひどい話だ、 と思いますか?それとも、当然だ、 と思いましたか?


 ラーメン屋は商売、ビジネスです。需要がないのに、お店を維持できるわけがありません。それに、”補助”という単語には”補う”、”助ける”という言葉が入っています。それに頼りっきり、というわけにはいかないのです。


 米の直接支払い交付金は、100万円の補助金なのです。それに頼ってはいけない。


 「農業は国の基幹産業だから、国から助けられるのは当然だ」


 そういった意見もあると思いますが、現代の農業はビジネスです。


 農業もラーメン屋と同じく、儲かる見込みがないなら撤退すべきです。撤退しないなら、 自ら改善しなければいけない。国や周り、他者に文句を言うのはお門違いだと思います。


 感情抜きで距離を置き、客観的にみれば、こういう結論に至ることは分かっていただけるはずです。


 交付金の廃止、減反政策の廃止は、「農業も、ちゃんとビジネスとしてやっていけよ」という国からのメッセージなのです。


 
 さて、「マネジメント」で有名なドラッカーは「製造業の人口比率を1/4から1/10にしなければ、知識時代にはついていけない」と言っています。


 これ、製造業の従事者は減っていくだろう、という未来予想ではありません。 減らさなければ、国として勝負できない、とドラッカーは言ってるんです。


 この言葉の意図は、今まで製造業に流れていた層をもっと別の分野にまわし、有効に使わなければいけない、ということです。製造工程はどんどん自動化、AIの導入でさらに人手がいらなくなっていくのは確かです。


 農業も例外ではなく、機械化が進み、最近はIoTを取り入れたり、自動運転の試みもあります。今後さらに、人手は必要ではなくなってきています。


 いま「人手は必要ではなくなってきています」と、言ったばかりですが、担い手不足のしんどさは、皆さんが一番感じているはずです。


 ですが、そのしんどさは今後ゆるやかに、解消されていくのではないかと思っています。


 田舎にポツンとある商店を思いだしてください。そこのお菓子ってバカ高くないですか?スーパーなら100円で買えるようなお菓子が300円だったりして、普段買い物しているスーパーって安いんだなって思いました。


 でも、そこの商店は、300円でも需要があるから売ってるんです。わざわざ遠くの安いスーパーに行くよりも、高いけど近い商店に価値がある。


 でも、その商店にも辛い時期があったと思うんです。まわりから少しずつ、人も店も減っていく途中、需給のバランスが崩れていた時期があったと思うんです。 消費者が、高い単価に 納得していなかった時期が。


 今の農業もそうなのかなって思うんです。この先、青年部の皆さんが少数精鋭の農家として生き残り、大勢いたライバルが消え、ポツンとある商店になったとき、作物の単価を納得できる価格で売れるような時期がくると思うんです。


 「 農家は減っていく…のではなく、減らさなければいけない」


 この言葉は、農業分野を縮小せよ、という意味ではありません。旧態然とした農家が淘汰され、生き残った少数精鋭でやっていこう、という意味なのです。

 

 ここに集まっている皆さんは、 どちら側の農家でしょうか。


 もちろん、今の状況を切り抜けていける、精鋭農家ですよね。


 僕たちJA職員は、そんな精鋭農家を力添えする立場にあります。出荷された作物から、 手数料をとっているだけではいけないのです。今のJAは、スケールメリットに頼ってばかりで動きが遅く、個々の農家の経営者マインド、個性を殺してしまっています。それでは、農家のためのJAではありません。


 僕の提案として、JAの中に、もっとスモールに動ける、独立した部門があればいいと思っています。短期的にみれば、利益が少ないことやリスクが大きいことでもチャレンジが許され、トライ&エラーを素早くこなせる部門です。


 例えば、 マイナーな作物を使って、いきなり商品化。商品数量を50個程度に抑え、都会のイベントに出店してみる。もし、その商品がウケれば、量を増やし別イベントで検証。売れることが分かれば、マイナーだった作物を、その商品ありきで、意欲ある農家に対し、新規作物として提案できるかもしれません。


 こうして成功と失敗を繰り返し、ふるいをかけて選りすぐった成功事例をJA本体の事業として昇華させることができれば、将来の大きな利益につながります。


 スケールメリットという強みは捨てず、自由度の高い身軽な部門がJAのパイプを活かし、農家の個性を引き出す。 主役は農家ですから。


 そういった尖った部門があれば、JAとしての裾野が拡がり、皆さんのような精鋭農家とWin-Winの関係を築けるJAになれると思います。


 僕は一職員として、そういった、皆さんがもっと活躍できる環境をJAのなかに構築していければ、と思っています。


 そのために、日々の業務をこなすだけでなく、より一層、盟友や地域の声にしっかりと耳を傾けていきます。そこには必ず、ヒントがあるはずです。それをもとに、 僕らにとって、より良い環境を作り出していこうと思います。

 

(発表時間:10分13秒)

 

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